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不動産・相続

遺産の相続放棄をすべきか?すべきじゃないか?と悩む前に知っておくべきこと

遺産を相続することになったが、被相続人の遺産の中に多額の借金があるので相続放棄した方がいいのかと悩んでいらっしゃる方はいませんか。この場合、相続放棄という手段が考えられます。

 

本記事では、相続放棄をした方がいいのかとお悩みの方向けに、相続放棄に関する基礎知識をご説明します。

 

 

遺産相続の相続放棄ってなに?

 

相続放棄とは、亡くなった方(被相続人といいます。)の遺産を引き継がないという意思表示です。人の死亡により相続が開始し、被相続人の財産のすべての権利義務を相続人は引き継ぎます。

被相続人の財産は現金、預貯金、不動産や有価証券などの積極財産だけでなく、借金などの消極財産も含まれます。

積極財産の額より消極財産の額の方が大きい場合に単純に相続を行うと、相続人はその超過分について経済的には損を被ります。このようなケースでは、相続人が相続放棄をすれば初めから相続しなかったことになり、相続をしたことでかえって損をしたということを避けることができます。

 

相続放棄の方法と相続分の放棄との違い

ここでは、相続放棄の方法と相続分の放棄との違いについて解説します。

 

(1)相続放棄の方法

相続放棄の手続は、以下のような流れで行います。

①被相続人の財産を調査する

相続放棄をするかどうかを判断するため、被相続人の財産がどのくらいあるか調査します。積極財産と消極財産を比較し、消極財産の方が積極財産よりも大きい場合には、相続放棄を行う事を検討する必要があるでしょう。

 

②必要書類を整える

相続放棄を行う事を決断した場合、まず、必要書類を整える必要があります。

・相続放棄申述書

・被相続人の住民票除票または戸籍附票

・相続放棄を申し立てる人の戸籍謄本

・収入印紙etc

 

③相続放棄の申述をする

必要書類を用意して、家庭裁判所へ相続放棄する旨の申述をします。申述を行う先は、被相続人の最後の住所を管轄する家庭裁判所です。

 

④家庭裁判所から送付された照会書へ回答する

相続放棄の申述をしてから1週間から10日程度で家庭裁判所から照会書が送られてきます。必要事項を記入して家庭裁判所へ送り返します。

 

⑤家庭裁判所から相続放棄申述受理通知書が到着

相続放棄申述受理通知書が家庭裁判所から送られてきたら、相続放棄の手続は完了です。

 

 

(2)相続分の放棄との違い

相続放棄は相続人という立場を放棄することで、一切の遺産の相続を行わないものです。これに対して、相続分の放棄とは、相続人としての立場は放棄しないが、相続財産のうち積極財産の相続のみを放棄するという制度です。相続放棄とは異なり、消極財産の相続は免れないことに注意が必要です。

 

 

相続放棄すべきか?相続放棄のメリットと注意点

 

(1)相続放棄のメリット

①借金などの消極財産を相続しない

被相続人が多額の借金をしていた場合、相続放棄すれば借金を引き継がなくてすみます。被相続人が借金をしていなくても、他人の連帯保証人になっているケースがあります。相続は連帯保証人としての地位も引き継ぐので、連帯保証している債務を返済しなくてはなりません。ところが、相続放棄すれば連帯保証人としての地位を引き継がなくてすみます。

その他、未納の税金や未払医療費、損害賠償の支払義務など消極財産を相続しなくてすみます。

 

②遺産分割協議に参加する必要がない

遺産分割協議ではすべての法定相続人が参加して、遺産をどのように分けるかについて話し合います。スムーズに話がまとまればいいのですが、話し合いがまとまらなければ家庭裁判所へ調停や審判の申立をすることになります。

遺産分割協議に参加すると時間と手間がかかることがありますが、相続放棄すれば遺産分割協議に参加しなくてすみます。

※調停とは、家庭裁判所の調停委員を介して当事者が話し合うことです。

※審判とは、家庭裁判所の裁判官が当事者の主張や家庭裁判所調査官の調査結果を基に判断を下す手続です。

 

③特定の相続人だけに相続させることができる

相続放棄をすると、放棄した相続分は他の相続人に分配されます。特定の相続人だけに遺産を相続させたい場合、他の相続人が相続放棄をすればいいだけです。

たとえば、相続人が兄弟3人である場合、他の2人が相続放棄をすることで家を継ぐ1人にすべての遺産を相続させることができます。

 

 

(2)相続放棄の注意点

①撤回ができない

原則として、相続放棄を撤回することはできません。相続放棄をした後に撤回を認めると、相続放棄がなされたことを前提に動いていた他の相続人や第三者の地位を不安定なものとさせるからです。ただし、他の相続人により詐欺や脅迫により相続放棄したなどの場合には、例外的に撤回が認められることもあります。

 

②積極財産を相続できない

相続放棄をすると、消極財産だけでなく積極財産も含めたすべての財産の相続権を失います。被相続人が不動産や株式などの財産的価値のある遺産があっても、放棄すると一切相続することができません。

 

③相続放棄の期間が定まっている

相続放棄は、自己のために相続が開始したことを知った時から3ヶ月以内に相続放棄の手続を行わなければなりません。自己のために相続が開始したことを知った時とは、たとえば相続人が配偶者と子だけの場合には、被相続人が亡くなったことを知った時のことをいいます。

 

 

(3)相続放棄はすべきなのか?

では、どのような場合に相続放棄を検討することが望ましいのでしょうか。

借金などの債務があれば、どんなケースでも相続放棄をするのがいいとは限りません。まず、被相続人の積極財産と消極財産を比較します。消極財産の額が積極財産の額を大きく超える場合には、相続を行う事で相続人にとって大きな経済的負担が生じることにもなりかねません。そのような場合には、相続放棄を検討する必要があるでしょう。

 

 

まとめ

被相続人に借金などの消極財産があると相続放棄を検討することが選択肢の一つになります。いったん相続放棄をしてしまうと基本的には撤回が出来ませんので、慎重に判断する必要があります。さらに、相続人の経済的負担を抑える方法は、相続放棄だけではなく限定承認という制度も存在します。相続財産を調査したうえ、積極財産と消極財産を比較し、単純に遺産を相続するか、相続放棄を行うか、それとも限定承認を行うかなど相続に関する自らの態度を正しく迅速に決定するためには、専門的知識が必要となります。

相続放棄のことでお悩みでしたら、早い段階で弁護士に相談することをおすすめします。何かお悩み事がございましたら、お気軽にご相談ください。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

東京大学法学部司法学科卒業。最高裁判所司法研修所修了後、裁判官に任官し、横浜地方裁判所、名古屋地方裁判所家庭裁判所豊橋支部、横浜地方裁判所家庭裁判所川崎支部判事補、東京地方裁判所家庭裁判所八王子支部、浦和家庭裁判所、水戸地方裁判所家庭裁判所土浦支部、静岡地方裁判所浜松支部判事。退官後、弁護士法人はるか栃木支部栃木宇都宮法律事務所勤務。

裁判官時代は、主に家事事件(離婚・財産分与・親権・面会交流・遺産分割・遺言)等を担当した。 専門書の執筆も多く、 古典・小説を愛し、知識も豊富である。 短歌も詠み歌歴30年という趣味も持つ。栃木県弁護士会では総務委員会に加入している。