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交通事故

事故で、被害者の車のトランクに乗っていた人を死亡させてしまった、責任は?

交通事故においては、原則として加害者が被害者に賠償金を支払わなければなりません。被害者が怪我をしてしまった、死亡してしまったなどのケースでは、治療費や葬儀費用、逸失利益や慰謝料等を支払う必要があります。

ただし、交通事故は一方だけに責任があるとは限らず、双方に責任が生じる場合にはその責任の割合に応じて賠償金を負担することになります。

では、交通事故の被害者側に重大な過失、落ち度があった場合はどうなるのでしょうか。今回は事故の被害者が、自動車のトランク内に入っていた場合の加害者の責任について解説します。

 

コンビニの駐車場から出ようとしたらトランク内に乗っていた人物が死亡、過失割合は?

今回取りあげるのは、「コンビニエンスストアの駐車場から道路に出ようと思ったら、右方から来た車と衝突。右方から来た車のトランクに乗っていた人が死亡した」という事例です。

「私がコンビニの駐車場から道路に出た時,右方から道路を走行してきた車と衝突し,同車の後部トランクに乗っていたAが路上に放り出されて死亡しました。Aはふざけてトランクに乗っていたそうです。

私はトランクに人が乗るなど想像もつきません。私に責任があるのでしょうか」という相談が寄せられましたので、回答したいと思います。

 

道路外からの進入車は原則として過失が大きい

基本的には、コンビニエンスストアの駐車場から道路に入ろうとした自動車が、道路を走行中の自動車と衝突をした場合、コンビニエンスストアの駐車場から出ようとしている自動車の過失割合が大きくなります。
交通事故の過失割合を事故形態ごとにとりまとめている、「別冊判例タイムズ38 民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準」では、この形態の事故の過失割合を、「コンビニから出ようとした自動車が8割、道路を走行していた自動車が2割」としています。コンビニの前面道路が、二車線を超えるような大きな道路の場合は、コンビニから出ようとした側の過失割合が85%と判断されることもあります。

したがって、トランク内の人物の死亡云々は別として、基本的にはコンビニから出てきた自動車の過失が大きく、道路を走行していた側の過失は小さくなります。

 

トランクに人間を乗せていたことは修正要素になり得るのか

交通事故の過失割合は、判例タイムズに掲載されている過失割合を基本として話し合われます。ただし、絶対にこの通りに判断される訳ではありません。例えば、道路を走行していた自動車の運転手が泥酔状態であれば、1割から2割ほど過失割合がプラスされることもあります。スピード違反があった場合も同様です。このように、事故の個別の形態によって過失割合は修正されます。過失割合を修正できる要素のことを、「修正要素」といいます。

修正要素は、事故形態ごとに判例タイムズに掲載されており、実務上はそれを参考にして過失割合を検討します。ところが、判例タイムズには、イレギュラーすぎる事例は修正要素として記載はされていませんので、イレギュラーな要素については個別に考えていくことになります。

類似の事例もそれほど多くはないのですが、「シートベルト未着用」に関する過失割合については、いくつかの判決が出されています。その多くが「シートベルトを着用していない側の過失割合が10%加算される」というものです。

正規の乗車装置である座席に座っている状態でも、シートベルトをしていないだけで10%の修正が行われるのですから、トランク内に人間を乗せていたことはさらに大きな過失修正になると想定されます。

ただし、その過失割合が、双方の自動車修理代や、正規の乗車装置に乗っていた人物の損害にまで及ぶとは限りません。トランク内に人間を乗せていたことで、損害が拡大したとみなされなければ、トランク内の人間とは無関係の部分の過失割合は変わらない可能性もあります。

 

トランク内の人物の死亡と加害者の行為の因果関係

これまでお話しましたように、原則として、コンビニから道路に入った自動車は加害者、道路を走行していた自動車は被害者となります。したがって、トランク内に人間を載せていた自動車やその正規の乗車装置に乗車していた人には、加害者が過失割合に応じて損害を賠償しなければなりません。

しかしながら、トランク内の人物については、そもそも加害者側にその賠償責任が生じるかどうかが問題となります。コンビニの駐車場から道路に出る場合、道路を走行中の自動車と衝突する可能性があること、衝突をしたら自動車や同乗者に損害を与える可能性があることは容易に想定できます。

しかしながら、そのトランク内に人間が乗っていることまで想定しておくことは困難です。トランク内に人間を拉致監禁している自動車に、他の自動車が追突をしてトランク内の人間が死亡するという事故が過去に発生しました。この事故では、トランク内の人間の死亡との因果関係について、最高裁判所まで争われましたが、結局「事故の加害者にトランク内の人物が死亡した責任はない」との判断がなされています。

つまり、この判例を基に検討をすると、「トランク内の人間の死亡については、加害者の責任は問えない」と考えられます。

 

事故の原因はコンビニから出ようとした車にあるものの、死亡の責任までは問われない可能性がある

これまでの話をまとめると、以下のようになります。
・コンビニから出ようとした自動車の基本の過失割合は80%から85%
・トランク内に人間を乗せていたことが修正要素となりコンビニから出た側の過失が小さくなる可能性はある
・トランク内の人間が死亡した責任は問われない可能性がある

コンビニから出ようとした自動車が、自分の自動車の修理代及び相手方の修理代の8割前後を負担しなければならない可能性は大いにあります。ただ、トランク内で死亡した人間の損害賠償について、その責任を負うかどうか、また負うとしても通常の割合になるかどうかは別の問題です。
トランク内の人間については、責任を問われない可能性もあるもののイレギュラーな事例ではありますので、「責任がありません!」とは断言できません。
そのような事例でお悩みの方、責任を問われている方は、当事務所までご相談ください。事故状況を詳しくヒアリングした上で、目安をお伝えいたします。

東京大学法学部司法学科卒業。最高裁判所司法研修所修了後、裁判官に任官し、横浜地方裁判所、名古屋地方裁判所家庭裁判所豊橋支部、横浜地方裁判所家庭裁判所川崎支部判事補、東京地方裁判所家庭裁判所八王子支部、浦和家庭裁判所、水戸地方裁判所家庭裁判所土浦支部、静岡地方裁判所浜松支部判事。退官後、弁護士法人はるか栃木支部栃木宇都宮法律事務所勤務。

裁判官時代は、主に家事事件(離婚・財産分与・親権・面会交流・遺産分割・遺言)等を担当した。 専門書の執筆も多く、 古典・小説を愛し、知識も豊富である。 短歌も詠み歌歴30年という趣味も持つ。栃木県弁護士会では総務委員会に加入している。